看護ストーリー

ピュアだったあの頃

准看護師の資格を取ったはタケシは◯集会シーサイド病院で働き始めた。

◯集会病院といえば救急車を断らないことで有名である。「看護教育もしっかりしてるから働いてたらスゴく勉強になるよ!ユー働いちゃなヨ!!」と言うかわいい看護部長の殺し文句で美人に弱いタケシはちょっと遠いけど働くことを決めたのだった。

まだまだ未熟なタケシは1人前の看護師になるべくヤル気を胸に消化器内科の病棟で働き始めた。

働き始めたと言ってもアルバイトなのである。

なぜアルバイトかと言うと午後からは正看護師になるための学校に通いつつ働くのでバイトあつかいとなる。

業務も准看護師の資格を取ったばかりで経験のないタケシにできることは少なく、看護助手と看護師の間みたいな業務内容なのである。

病棟での仕事内容

受け持ちをせず清潔ケアがメインで看護師の業務を補助するみたいな感じで仕事をする。(看護業務を知る人はフリーといえばわかりやすいだろう)

消化器内科といえば内視鏡であり内視鏡といえばウンコの確認というのがタケシの仕事である。

下部内視鏡は肛門から内視鏡を入れるために検査日はウンコをキレイさっぱり出さないといけない。なので検査前の患者さんは便が薄い黄色になったら看護師を呼んで確認してもらわないといけないのだ。

検査日の患者さんは朝から1リットルから2リットルポカリのようなものを飲んでウプウプしながらブリブリとウンコをしないといけないので、それはそれでしんどそうなのである。

ウンコの色の判定がタケシに与えられた、初めての看護師らしい仕事。

「やってやるよ。ウンコだろうと、何だろうと仕事だからね。タケシ行きまーす!」ババっと便器をのぞくタケシがいた。

そう言えば、はやりの歌で聞いたところによるとトイレには神様がいるらしい。

神聖な仕事を与えられたタケシは、まさしく白衣の天使なのだと自分を納得させ、主にオッサンの出すウンコを確認するのであった。

タケシは看護経験がないため他人の便に対しまだまだ抵抗があった。

ピュアな初心者ころはウンコのケアをした後に平然と食事ができるメンタルになるだんて思わない。しかしながら平気になるのだから驚きである…

バツイチ郷田先輩との出逢い

そんなある日、タケシの一つ上の看護学校2年生の郷田先輩と業務にあたっていた。

郷田先輩は准看護師で実務経験がありタケシと同じ学生のアルバイトの准看護師である。

そこには天と地ほどの差がある。

ちがう言い方をすれば「神と一般人」くらい、ちがう。

実務経験のある准看護師と経験のない准看護師、ともに学生。

しかも、郷田先輩はバツイチ。このバツありが看護業界には多いのを知るのは、まだまだ後のことではある。

郷田先輩は実務経験が数年ある。つまりはバリバリの准看護師。

「バリナース」なのである。

使えない看護師とイジめはセットメニュー

ある日のこと、タケシは忘れっぽい、おじいの食事介助にあたっていた。

自力での食事できないらしく介助するのだが、食べることや飲むことがうまくいかない。おじいは食事に時間がかかっていた…

介助すれば食べれる。しかし時間はかかる。

タケシは思った「ここで食事を食べさせること、そんなに難しくない。これは今のオレの使命なんじゃぁあないか!!ドーーーン!!!」と。

しかし、仕事は待ってくれない。

モチロン、郷田先輩は目をピカらせている。

「あんたさぁ、いつまで食介やってるワケぇぇぇぇ。あんたの分までアタシに働けってコトぉぉぉぉぉ。」

食事介助をしているタケシにバツイチ郷田が言った。

「うるせぇブスが、ブタが、このアバズレが!!」と心の中で言ってはみた。

が、ヤバい状況であることをさとり「あっ、すみません」と気づくフリをするタケシ…

シーサイド病院はやはり忙しい病院なのである。

ひとりの患者さんにゆっくり時間をかける余裕は初心者のタケシにはまったく無かった。

ナース界の常識「優先順位」

想いだけでは仕事にならない。

優先順位を考えて、効率的に仕事する。コレは看護師には求められる絶対的な考え方である。

看護師界では代々、継承された奥義中の奥義と言っていいほど、基本中の基本である。ほぼ「全集中の呼吸」と同義ぐらい基本である。

初心者のタケシは役に立ちたかった。目の前の人は介助すれば食事を食べることができた。

タケシはこの想いをどうしたらいいのか、分からないまま仕事をこなしていった。

「想い」を優先して優先順位を忘れるタケシに対して、郷田先輩は「分からせる」ためにもキツい言葉で指導することは少なくなかった。

「タケシがマジで使えねぇぇぇぇぇ!いい加減さぁ、仕事を覚えなよぉぉぉ!!」など、キツく言われることはタケシには日常になっていった。

(ちょっとMなタケシには郷田の強めの指導が無意識のうちに快感になっていることにタケシは気づかずにいた。気持ちの整理がつかないタケシは郷田先輩はオレのこと好きなのかな?とおかしな反応をしてしまっているのを郷田は知るよしもない。男女の関わりとは難しい面がある。のちに話すが「憎悪」が「愛」になることもあるが危うい関係性である。)

忙しい病院の現実問題として「想い」だけでは仕事はできない。やはり優先順位をつけて仕事をこなしていく能力が求められる。

優先順位がおかしいことになっていると結果、色々な人に迷惑をかけて大きなミスにつながるので早いうちに各病棟の優先順位を理解する必要がある。

当たり前のことが「ピュア」で初心者の頃のタケシはできないでいた。

「人を助けるために看護師になったんだ。でも助けるってなんだろう。看護ってなんだろう。かあちゃんオレまちがってるのかな…」

帰りの電車でこぶしを握りしめて涙をこらえるタケシがいた。

不器用で空気の読めないタケシみたいなのには指示して身体で覚えさせた方が早い。しかし、忙しいと指導係以外の人は面倒を避けて通りがちでタケシみたいな邪魔者はドンドン孤立していくハメになる。こうした「使えない人問題」を病棟単位で取り組むことが病棟業務をうまく回す秘訣となる。

タケシのような使えない人のために本人には内緒で「タケシミーティング」を病棟で開いて、皆で問題に向き合うことがひとつの解決策ではある。

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suu(すー)

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